北京オリンピックのフリースケーティングを振り返ります。ライトオタの感想です。
前日練習の怪我
前日のサブリンクでの練習中に、痛そうに転送する場面がありました。
記者さんの怪我は大丈夫?との質問に拳を上げたという羽生選手。
時間いっぱい練習しそうなものなのに、曲かけ練習もせず、早めに切り上げてしまったのです。
ファン目線では「ああ、これはちょっとやばいな」…と思いました。
四回転アクセルの練習
この日の練習まで、四回転アクセルの練習の時には、本気で回転をかけにいっていない様子でした。
着氷時の衝撃はすさまじく、一回の失敗が怪我のもとになる‥ということは容易に想像できます。
全日本の時も、軸を作ることを重点的に行い、練習では回転をかけにいく練習を押さえている様子でした。
それは北京入りしてからも同じだったと思いますが、この前日練習は違いました。
本気で何回も回しにいっていたように見えました。
ショートでの失敗もあり「絶対4A(四回転アクセル)を決める」という覚悟を感じます。
そこでこの転倒…。
あぁなんで今なんだろうと、思わずにいられませんでした。
こんなに頑張ってきたのに。必死に掴もうとしてきたのに。
コーチの不在
今回の五輪で、ソチ、平昌と大きく違ったのがコーチの不在でした。
この2年間、羽生選手は練習拠点のカナダ、クリケットクラブに帰っていません。
カナダは入国規制も厳しく、行き来は難しくなりました。
振付も指導もリモート。リアルタイムでそばで見てもらえる練習とは大きく異なります。
本人曰く、一人で練習するメリットもある…とコロナ1年目は言っていました。
四回転アクセルの練習に集中できること
他の選手の曲かけ時に遠慮することなく、自分の練習ができること
そういったメリットがあったそうです。
クリケットでは、選手の自主性が大切にされています。
羽生選手は、以前から自分のプランをしっかり持っているタイプで、計画をたてたり、そのとおり実行する力は長けている方だと思います。
ただ、どれほど孤独だったんだろう…と思います。
一人で練習して、一人で黙々とやる。数週間や数カ月であれば、そういう時期があってもいいでしょう。
それが2年。しかもそのうちの1年はオリンピックがある1年です。
オリンピックの攻略方法は、現役スケーターの中で最も熟知している。それは間違いないでしょう。
ただ、普通は、メンタルと体調の管理、ピーキング、食事、メディア対応全て、完全にフォローされた体制で臨むのがオリンピックです。
普通の枠に当てはまらない選手ですが、規格外の注目を集める中、どれだけ自分を追い込んだのだろう‥と。凡人には遠く、想像も及ばない世界です。
今回、コーチのブライアンオーサー、トレイシーウィルソンは、北京には来ていましたが、羽生選手本人の希望で、キスクラには座らないことにしたそうです。
本人の希望を尊重したと、オーサーも答えています。
それが、コロナ対策を意識してのことか、ここ数年のルーティンを大事にしたいからなのか、コーチなしでノーミスできた全日本のイメージを大切にしたいからなのか、情報戦略なのか、誰にも分りません。
普通の選手にはない行動でした。
オリンピック二連覇していなければ、できない行動だったと思います。
本番のフリー
直前の六分間練習でも、足の不調が見えます。
丁寧にイメージを作っていく。後は本番の一発勝負にかける。そう見えました。
そして、冒頭の四回転アクセル。
これまでで、一番回っていました。転倒にはなったけど、片足での着氷。
すぐに演技を続けます。
次の四回転サルコウも転倒。
あぁ、足の踏ん張りがきかないんだ…。どうしよう。最後までがんばれ…と祈る思いでした。
それから先は、転倒しなかった。
スピン一つ、表現ひとつとっても、万全でないのが見える。それでも、あの「天と地と」の世界観を、壮大な物語を滑り切りました。
よく…頑張ったとしか言いようがないです。
友達の間では、プルシェンコがかつて使っていたという馬用の痛み止めが必要なんじゃないか…なんて話もしていました。
相当痛そうに見えました。
でも、演じ切りました。それはもう流石としか言いようがない。
羽生結弦としての4Aとは一体何だったのか
試合後の記者会見で「羽生結弦として」という言葉を多く使いました。
それほどファンでない一般の方には「???」だったと思います。
羽生結弦らしいジャンプとは一体なんなのか。
繋ぎがもりもりで、複雑なステップを折りまぜ、曲と調和し(音を大切にして)、正しい技術に基づいた、流れのあるジャンプだと思っています。
この正しい技術とは何なのか。
一番強調したかったのは、正しい踏切のことだと思っています。
女子にも四回転が必要と言われる時代になりましたが、稚拙な踏切として、離氷前に氷上で2分の1~4分の3回転稼ぐ踏切があるのです。
着氷時の回転不足は、ダウングレードやアンダーローテーションとして、減点対象となります。
ところが、この踏切時の「ずる」は、長いこと見逃されてきました。
採点には全く影響されなかったのです。
むしろ新時代のテクニックのひとつとしての風潮さえありました。
正しくない四回転にも、高難度(?)だからという理由でGOEが付く。
更に、高難度四回転(?)とともに、爆上がりするPCS。
四回転を5本も飛んだのに、2本の選手に負けたのはなぜ…と泣く女子選手の話がありましたが、これまでそうした採点を受けてきたのだから、これもある意味可哀想な話です。
プレローテーションと呼ばれる踏切に対する減点は、コロナだし大変だよねって見送られ、
4Lo、4Lz、4Fの基礎点を同じにするという話も無しにされて
4Aの基礎点は、元々15点だったのが、12.5点に下げられて
ショートのジャンプ前のステップも、必須項目だって忘れるジャッジが多いから無しでもいいよってして
狙い撃ちのシリアスエラー
陰謀論は好きではないけど、いくつもの逆風がそこにはありました。
でも、羽生結弦としての、正しい技術のジャンプも、曲も、つなぎも、全て諦めなかった。
それは4Aも例外ではなく、最も難しい4Aであっても、表現の一部としてのアクセルであることを諦めなかったんです。
これが、羽生結弦としての四回転アクセルの正体だと思います。
あれだけのアクセルの名手が、四年の歳月をかけて、死ぬ気で練習して、辿り着いた誰も見たことのない境地が、あの北京オリンピックでの4Aでした。
もしかして、これから先、違う誰かがずるをして、4A成功があったとしても、それは別の何かです。羽生結弦の4Aではない。
素人ファンの私は、もう少しじゃん!見たい!と思ってしまう。
羽生選手に期待してしまう。これまで何度も夢を見させてもらったから。
だけど、2月25日のイミシンでの修造さんインタビューを見て、そんなに簡単じゃないんだなと思いました。
誇張ではなく、本当に命がけのジャンプだったのです。
イミシンのインタビュー書き起こし(2月25日放送)
修:僕らは、正直言って、羽生さんを見て色んな思いでいるんです。認定された四回転アクセル、感動とか、挑み続ける力ってある訳です。でもそれは僕らの想いですよね。羽生結弦さんは、自分で何をこのオリンピックで感じたんだろうなって。
羽:まぁ正直言っちゃえば、「やっぱり報われない努力ってあるな」っていうのと。うーん‥。「努力は嘘をつく」っていうことと、「でも無駄にはならない」っていうことを言ったことがあるんですけど、自分はそうやって信じてやってきて、今の自分の心は、「いや無駄にもなるじゃん」って正直思っています。
羽:僕は命がけでこのオリンピックという舞台まで本気で練習してきて、命がけで演技をした時に、うん。こうやってできなかったことに関しては、うん。無駄だったなって正直思っています。うん。悔しいですけどね。やっぱり。
羽:何回も心折れて、逃げそうになったけど…やっぱり、皆さんの想いとか、自分が今まで戦ってきた道のりとかを含めたら、逃げれなくて。また自分の心を自分でつぎはぎして。なんとか奮い立って。で、また折れて。それの繰り返しでここまで何とかやってきましたけど。やっぱり自分の中で、それが報われたとは…100%報われたとは、残酷ですけどね、思いはできないです。
修:努力って報われないんだなって言われた時、正直すごい辛かったんです。そんな言葉を出す人じゃないから。
羽:ふふふ。僕は努力してきたことが、結局はできなかったっていう理不尽にぶちあったってしまいましたけど。正直な話言っちゃっていいですか。正直、あそこ、あのアクセル、本番でできたアクセル。まぁほんのちょっと0.何秒、0.0何秒高く飛べてて、ぎりぎりまで足締めれて、例えばつま先から綺麗に降りて、足引けば降りたんじゃないかとか、簡単に言う人はいるんですよ。
羽:でも、考えてみてくださいよ。僕、何年間本気でアクセル練習して、あそこまで来たかって。ずーっとグランプリファイナルとかで練習してるのを見ていいただいたり、あとは国別もそうでしたけれど。回らないんですよ回転。正直。どれだけやってもどんだけ本気で締めても正直な話、おまえ死んでもやれよみたいなことをずーっと言いながらやってましたけど。回んないんですよ。そんな簡単に。だから、うーん。僕の、羽生結弦という、羽生結弦の身体で、羽生結弦の理想とするアクセルを続けた結果としては、あれが全てだったと僕は思っています。で、その全てを出させてくれたのは、サポートしてくださった皆さんが居て。
修:あのあと30秒で、質問で答えてくれている。
羽:修造さんありがとうございます!
修:そんな僕は関係ないですよ。
羽:ホントに。
修:でも掴んだ‥何か掴んだとしたら何を掴みました?無駄だったかもしれないって言ったけど
羽:えーなんだろう。無駄だとは思います。結果取れなかったら無駄だと思います。はっきり言って。僕はそういう人間なんで。申し訳ないけど。でも‥‥誇りは掴みました。
修:誇り?
羽:羽生結弦のアクセルとしての誇りは掴みました。そして、なんか前言ってたじゃないですか。ジャンプは友達みたいな。色んなジャンプ達が居てみたいな。4Aは、3Aまでは他の子だったけど、4Aだけは、何か自分でした。俺自身が4Aになんなきゃないけないんだなと思いました。またお願いします。ありがとうございました。